1.フランス

1) フランスにおける近年の貧困の動向

 フランスは、いわゆる経済危機(リーマンショック)以前はEU諸国の中でもさまざまな貧困指標が低下した数少ない国の一つでした。しかし経済危機が始まって以降は、他の諸国と同様に、貧困者は増加しつつあります。その中で経済的貧困は、特に若年失業率の上昇が密接に関連しています。もちろん、不景気などと言った経済的な困難だけが、貧困の要因ではありません。教育や健康水準が、大きく貧困の度合いを左右しているのです。

 

 2012年9月公表の最新の数値では、14.1%の人々が貧困線上 (at risk of poverty) 以下にあります。2009年のこの値は13.5%でした。変化は貧困層のみならず、所得の上位10%に関しても同様に生じて、あらゆる階層に影響を与えています。

 

 特に、片親世帯(父子・母子世帯)では、貧困線上以下の世帯が、2009年の30.9%から2010年に32.2%と増加しました。また、18歳以下の子どものそれ(貧困線上以下者)も、2009年の18.5%から19.6%になりました。


 このもっとも大きな要因は、家族手当算定基準などの凍結があげられます。過去30年間、フランスでは、分権化の動きが続いて、さまざまな判断をより地域に近いところで決定するようになってきています。この動きは社会福祉政策において特に顕著で、子どもの福祉、障がい者や高齢者への援助、家族や子どもの健康維持など、いずれも郡 (department) レベルが管理するようになってきています。(Nishimura 2013)


2) フランスの貧困指標作成の動向

<1> 貧困指標の作成

 フランスでは、貧困問題はかなり以前から研究対象となり、政府機関において各種貧困および社会的排除指標が作成されています。具体的にはONPES(Observatoire National de la Pauvrete et de L’Exclusion Social 国立貧困・社会的排除観察機構、「オンペス」と略称している。)が、データの収集・作成を担当しています。(指標内容は下記表1,表2参照)

 このONPESは、政府や評議会などに毎年報告書を提出しており、この報告における勧告を受けて、下記の機関が政策立案を行う、中央政府や地方政府に指示を出し、さらにNPO団体などと協力して実践活動を行います。

 

 2011-12年の報告書は、英文でも公刊されており、この年のタイトルはEconomic crisis and labour market and social exclusion と題されてます。これは、特に労働市場との関連が重視され、近年の貧困が雇用の喪失、すなわち失業と密接に関連していることの証といえるでしょう。各種貧困・社会的排除の指標は、ここに2000年からの過去10年分のデータが公開されています。(Nishimura 2013)

 

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表1 フランスの社会的不平等、所得、生活状態の指標
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表2 フランスの社会的包摂と社会状況指標
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<2> 貧困指標

 指標は主に3種類の尺度 (相対所得でみた貧困、生活状態の貧困、主観的得貧困) からなっています。貧困をいわゆる絶対的な貧困として捉えないことで、貧困をより明確に捉える複合的な尺度の作成に努めています。

 ONPESでは、これら3種類の指標の関係をさまざまな角度から計量的分析を行っています。ちなみに、3種の指標のすべての基準で見て、下位10%に位置する家計数は2%以下です。これら3つの指標間での相関関係などを分析し、計量経済学的手法によってその因果関係も探っています。

 ONPESは、現時点でこれらのデータに基づく分析の限界も認めており、より長期にわたるパネル・データを収集して改善しようとしています。

 

3種類の尺度がどのように測定されているか見てみましょう。

 ・相対所得

 ① 「課税所得サーベイ」によって測定される、所得で見た貧困:

  1996年以来毎年行われ、2000年以降は35,000世帯の標本を(それ以前は70,000世

  帯)、地域クラスターごとに抽出。サーベイは、『雇用サーベイ』の一部として行われ

  ている。 このサーベイから採用される貧困に関する指標は、課税所得、明示化されな

  い帰属所得などがある。

   ② 家計調査:

  1995、2000、2005年と5年おきに行われ(10,000世帯を対象)、所得と消費に関す

  る詳細なデータがとられる。

 ③ EUの家計パネルデータ:

      1993/94 から 2000/2001 にかけてスタート。8つのウェーブ(パネルデータのセッ

      トの事を指す)で 7,000の家計を取っており、所得に関するかなり詳しい質問票からな

  っている。

   ④ EU-SILCデータ:

  毎年定期的に行われる調査。2004年の 16,000世帯の調査から始まり、9年おきに

  3,000世帯のサンプルを変更する調査。所得と社会的指標についての詳細な質問項目

  からなる。ベンチマークとしては、①の「課税所得サーベイ」がとられる。

 

・生活状態の貧困、主観的貧困 

    上記の ③EUの家計パネルデータ、④EU-SILCデータと、フランス独自の生活状態調査

      (Ongoing living conditions surveys : 毎年1月と10月に6,000標本に対してなされる)

      を基礎にしている。

  生活状態:たとえば物質的剥奪( material deprivation)として、衣服、暖房、食事、

  休暇日数、衛生的な住居、飲食を共にする友人や家族の存在、などの項目について、

  一定の加重値を決めて、点数化。

  主観的貧困:アンケート調査の結果をもとに、たとえば家計の厳しさについては、所

  得、借金苦に悩まされているかなどについて、加重値をかけて指標化。(Nishimura 2013)

 

<3> 政策との架け橋

 貧困と社会的排除と戦うための政策は、「貧困と社会的排除と戦うための国民政策評議会」(CNLE: Conseil National des politiques de lute contre la pauvrete et l’eclusion sociale )に委ねられ、政策実施に関して強い影響力を発揮しています。評議会のメンバー構成は下記表を参照ください。

 

 CNLEは、1988年12月1日法制化され、1993年3月に設立されました。CNLE の役割は、貧困と社会的排除政策に関わる全般的な問題に対し政府に助言することで、中央政府や地方政府などの公的機関とこの分野で活動する各団体、組織、有識者との調整を行い、これに関する現行法規や規約、行動計画に企画に関して、首相に助言する資格も持っています。

 

 CNLEの参加者は当初は政府関係者だけでしたが、2003年には「社会的パートナー」としての経済社会評議会の代表者拡大を行ないました。また同組織の活動は、社会的分野における公共政策の調整や舵取りの方法にも重点をおき、その政策の管理方法は、国や地方レベルの境界 (地方、県、市町村、市町村間、集落、生活圏、職住近接地域など) を限定した上での関与と責任の所在をよりよい形で明確にしたいという、CNLEメンバー全体の大きな関心事となっています。

 

  CNLEは、平均して月に一度の全員出席会議を招集し、暫定的分科会はその中で、今日的な議題を軸に定期的に設置されています。

  

*CNLCの主な主張と提言

・評議会は、社会的排除と貧困対策の政策を、グローバルかつ横断的な戦略に組み込まれる

 ことにとりわけ深い関心を寄せ、多面的で省庁の枠を超えた、マルチパートナーシップを

 持たなければならない。

・CNLEに勧告を受ける組織に対して、社会的行動は、基本的権利への全アクセスの実効性

 を保証するという目標を掲げる必要があると要請。(その権利は、就業、住宅、教育、研

 修、健康、文化など、幅広い分野にわたっているからである。)

・2011年3月15日、2010年レポート 「貧困を1/3減らす5カ年計画の達成目標」提言 (下記

   PDFファイル参照)を政府から議会へ提出。

・2011年7月5日には「最困窮者の医療アクセスに関する提言」を行い、CMU (全医療保障制

 度)、ACS (補完的健康支援)、AME (国家医療支援)制度など健康保険制度を用いない各種

 の保護措置を10年後にゼロとし、最貧困者の医療アクセスを改善するという目標設定。

・2011年10月20日、国家、UNEDIC (全国商工業者雇用組合)、ポールアンプロワ (Pôle

   emploi:雇用促進のための公的機関) の三者で、すべての国民に適切な最低所得が保障さ

   れるよう努力目標を設定。

・子どもの貧困に関する認識は、公式には2004年に認知されるようになり、2008年に重要

 な政策的ステップが踏まれた。法が制定され、RSAと呼ばれる新規の最低所得基準が適用

 され、このときにいくつかの基準を基礎とする「貧困スコアボード」設定。

 さらに市町村(County)ごとにBorough social action center, CCASの設置が義務づけら

 れ、NGO団体などの協力を得て、貧困、社会的排除対策を実施。(Nishimura 2013)

 

*CNLEのメンバー構成表

 

  議長エティエンヌ•ピント

 

 

政府代表8名:

議員代表8名:

国民教育大臣、

上院、

法務大臣、

国民議会、

健康・社会問題担当大臣、

地域議会、

土地・住居の平等性担当大臣、

県議会、

内務大臣、

市長

労働・雇用・職業教育・社会対話担当大臣、

 

文化・コミュニケーション大臣

 

       

国または地方公共団体とは別の公・私法人代表8名: 

ATD Quart Monde(人格尊厳のために行動する第4世界)FAPIL(住宅のための社会復帰促進団体連盟)FNARS(社会復帰と受容団体国内連盟)Médecins du Monde(世界の医師団)Secours catholique(カトリック支援団体)Secours populaire français(フランス人民援助団体)UNCCAS(地域社会行動連合)UNIOPSS(健康と社会のための民間組織諸連合)

       

国内賃金労働者組合組織と国内雇用者組織の代表8名:

全国的な社会運動団体の代表5名:

CFDT(フランス民主主義労働同盟)CFE-CGC(フランス幹部職員同盟)CFTC(フランス•キリスト教労働者同盟)CGT(労働総同盟)FO(労働者の力)CGPME(中小企業連合)MEDEF(フランス企業運動)UPA(手工業者連合)

CCMSA(農業相互扶助中央公庫)CNAF(家族手当公庫)CNAM(健康保険公庫)Pôle emploi,(ポールアンプロワ/雇用促進のための公的機関)USH(住宅のための社会連合)

       

有識者8名:

法令による構成員8名:

オリヴィエ・ブレス氏、

経済社会理事会理事長、社会的弱者のための住居問題に関する高等委員会委員長、経済活動による社会復帰に関する国民評議会議長、地方社会活動に関する国民評議会議長、全国都市評議会副議長、ONPES(貧困と社会的疎外の国立調査機関)議長、住居問題評議会議長

アマール・ディブ氏、

ミレイユ・エルボム氏、

アニエス・ド・フルーリュー氏、

ジャン-バティスト・ド・フーコー氏、

ジャックリーヌ・サンティーヴ氏、

ジャン-フランソワ・セール氏、

ジャン-ギレーム・グゼリ氏   

             

 

ダウンロード
2010年レポート 「貧困を1/3減らす5ヵ年計画の達成目標」
貧困対策の目標値の設定と説明 (Nishimura 2013)
フランス 貧困対策目標値.pdf
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