3.アイルランド

 アイルランドは、独自の貧困指標を開発し、それを公的な削減目標としてます。2002年に改定反貧困戦略 (National Anti-Poverty strategy) を制定し、貧困削減の目標を設定しています。

 貧困の指標として使われているのは、所得データに基づく相対的貧困 (中央値の60%未満)と、11項目の剥奪 (deprivation) の両者に該当する人の率です。アイルランドでは、この指標をConsistent貧困 (Consistent poverty) と呼び、公的貧困指標として用いています。

 以下に詳しく解説していきます。

  

1) 組織

 アイルランドでは、「貧困対策庁法(Combat Poverty Agency Act 1986)」が制定されており、貧困に関する政策提言、プロジェクト支援、研究、市民啓蒙活動などを担う貧困対策庁(Combat Poverty Agency)が存在します。

 

 2009年に、貧困対策庁は、社会的包摂室(Office for Social Inclusion)と統合し、社会家庭省(Department of Social and Family Affairs)の社会的包摂局(Social Inclusion Division)となりました。さらに、2010年には、社会的包摂局は、コミュニティ・平等・ゲルタクト省(Department of Community, Equality and Gaeltacht Affairs)に移管されました(Combat Poverty homepage)。現在は、社会的包摂局は、社会保護省(Department of Social Protection)に属している。

 貧困削減の国家目標と、その他の貧困指標は、社会保護省社会的包摂局が2011年より刊行している「社会的包摂モニター(Social Inclusion Monitor)」と題する報告書に公表されています。

 

 

 

2) 貧困削減(社会的包摂)目標(ターゲット)

 貧困の削減目標は、社会保護局 (Social Protection Department) 属する社会的包摂室 (Office for Social Inclusion) が、専門委員会 (Technical advisory Group) のアドバイスの下に設定しています。専門委員会は、貧困モニタリングに関するデータ戦略を策定しています。

 

 2002年の改定反貧困戦略 (Revised National Anti-Poverty Strategy) は、consistent貧困率を2007年までに2.0%に削減し、将来的には完全に撲滅することでした。その時点において貧困率をモニタリングするために使われていたのはアイルランド生活調査 (Living in Ireland Survey : LIIS) でした。

 

 2003年からは、EUによるEU-SILC調査を貧困のモニタリングに用いるようになりました。LIISとEU-SILCとの間には互換性がないため、二つの調査を継続して貧困率の動向を測定することは不可能で、削減目標の見直しが行われました。

 

   EU-SILCデータを用いた現在の貧困削減目標は4つ定められ、一番大きな目標は2010年に6.3%だったconsistent貧困率を2012年までに4%、2020年までに2%まで削減することです。第二と第三は、子どものconsistent貧困率を大人の貧困率に近いものにすること、就労者がいない世帯の全世帯に占める割合を削減すること (共に数値については今後決定予定) となっています。第四に、EUの「Europe2020」へのコミットメントとして、EU定義による複合貧困 (consistent貧困、貧困リスク、剥奪のいずれかに該当する) の状況にある人数の削減目標2000万人のうち、20万人削減することを公言しています。

 

 また、これらの公的目標のほかに、サポート指標、マクロ経済や社会背景を表す指標なども設定されています。

 

           アイルランドの相対的剥奪に用いられる項目

 

  項目

オリジナルの英文

① 過去1年間の間に暖房なし過ごした期間がある

Without heating at some stage in the last year

② 過去2週間の間に朝、昼、夕に外食することができない

Unable to afford a morning, afternoon or evening out in the last fortnight

③ よい2足の靴を買うことができない

Unable to afford two pairs of strong shoes

④ 過去1週間の間にロースト肉を買うことができない

Unable to afford a roast once a week

⑤ 肉または魚を2日に一度食べることができない

Unable to afford a meal with meat, chicken or fish every second day

⑥ 新しい服(お古でない)を買うことができない

Unable to afford new (not second-hand) clothes

⑦ 冬用の暖かい、防水コートを買うことができない

Unable to afford a warm waterproof coat

⑧ 家を十分に温めることができない

Unable to afford to keep the home adequately warm

⑨ 壊れた家具を買い替えることができない

Unable to afford to replace any worn out furniture

⑩ 1か月に一度友人や親せき・家族と飲み物や食事を一緒にすることができない

Unable to afford to have family or friends for a drink or meal once a month

⑪ 1年に1回友人や家族のためにプレゼントをを買うことができない

Unable to afford to buy presenets for family or freiends at least once a year

 

 

3) 公的な貧困削減目標

 アイルランドの公的貧困指標として用いられるのは、相対的貧困率とConsistent貧困率です。特に重要なのは、独自の定義を開発したConsistent貧困で、これが公的な貧困削減目標の核となっています。

 相対的貧困率は、EUの基準と同じく等価世帯所得の中央値の60%を貧困基準として、相対的貧困は、EUと同様に「貧困リスクにある(At risk of poverty)状況」と解釈されています。

 Consistent貧困は、相対的貧困と相対的剥奪の両方に該当する状況と定義されています。これを図で示すと、以下のようになります。 Consistent 貧困は、相対的貧困(基準は中央値の60%)の円と、剥奪の円の重なる部分です。また、剥奪状況であり、所得が中央値の 60%から70%の人々は、脆弱貧困 (vulnerable to consistent poverty) と呼ばれ、削減目標そのものではありませんが、それをサポートする指標として掲げられています。

 

 

 アイルランド政府による貧困削減目標とモニタリングしている貧困指標の測定に用いられるデータは、EU-SILCです。最新データEU-SILCの2009年によると、相対的貧困率が14.1%、約58万人、consistent貧困率が 5.5%、約23万人と発表されています。(Combat Poverty Homepage, http://cpa.ie/povertyinireland/howmanypeoplearepoor.html last access 2013/4/5)

  社会保護省は、毎年「社会的包括モニター(Social Inclusion Monitor)」と題する報告書を発表しており、この中にこれらの指標のプログレスが報告されています。 

 

アイルランド政府による貧困削減目標とモニタリングしている貧困指標

 

(*1)複合貧困(*2学校の通学のための衣服・靴の費用の給付  

貧困削減の国家目標 National social target for poverty reduction

貧困人数

Consistent貧困率を2016年までに4%,2020年までに2%に削減

子どもの貧困

子どものConsistent貧困を大人のそれに近づける

無職世帯の貧困

全世帯に占める就労者が1人もいない世帯の割合を削減

Europe 2020

複合貧困 (*1)にある人数を20万人削減

国家目標のサポート指標 (Supporting indicators for the national target for pov.reduction)

脆弱貧困(vulnerable to consistent poverty)

剥奪状況であり、所得が中央値の60%から70%の人の割合

基本剥奪(basic deprivation)

基本剥奪 (11項目の剥奪項目のうち2つ以上が欠けている人)の割合

貧困リスク率

相対的貧困率(中央値の60%)

再分配による相対的貧困の削減

再分配前後の貧困リスク率(絶対+相対)の差(削減率)

固定相対貧困率

2010年の貧困基準(中央値の60%)による貧困率

マクロ経済および社会政策指標(Macro-economic and social context indicators

マクロ経済指標

GNP、インフレ率、失業率、長期失業率、無職世帯に属する成人 (18-59歳)の割合

生活保護統計

生活保護支出(金額GNP%)、生活保護受給者数(人数、人口%)

生活保護(他の給付)基準

生活保護基準(金額、貧困基準に対する割合:成人 、子ども)、教育扶助費 (*2)、児童手当額、その他 

 (*1)複合貧困

 (*2)学校の通学のための衣服・靴の費用の給付

 

3) 統計局による報告書 (Measuring Ireland's Progress)

 中央統計局 (CSO) は、毎年「アイルランドのプログレスをはかる (Measuring Ireland's Progress)」と題する報告書を公表しています。この報告書に含まれる指標は、各種経済指標、価格、就労、社会、教育、健康など多岐にわたり、中でも社会 (social cohesing) の中に「貧困リスク (Risk of poverty)」として以下の4つの指標が含まれています (Ireland Central Statistics Office、2012)。 

 ①社会全体の相対的貧困率

 ②相対的貧困率、性別、年齢層 (0-14歳、15-64歳、65歳以上)

 ③Consistent貧困率 (性別、年齢3層別)

 ④Consistent貧困率 主な活動別 (就労、退職、家事、学生、傷病・障害、失業)

 

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