2.経済開発機構(OECD)

 先進諸国の貧困・格差の国際比較においては、国際連合よりも経済協力開発機構(OECD)の貢献が大きいといわれています。OECDは、加盟国におけるウェル・ビーイングの比較研究を古くから手がけており、これらは研究プロジェクトとして OECDの報告書やワーキング・ペーパーにて公表されてきました(OECD 2001, 2008, Boarini et al. 2006等)。

 中でも、OECDの所得格差研究は、各国の研究者らが、それぞれの国のミクロ・データを駆使して完成させた金字塔的な共同研究事業であり、その成果である所得格差や貧困の国際比較は、日本でも多く引用されています。

 また、OECDは、貧困・格差を始めとする社会政策に関する多くの指標を集めた「Society at a Glance」シリーズを始め、年金(「Pension at a Glance」シリーズ )、教育(「Education at a Glance」シリーズ )など、個別の分野における指標の国際比較の報告書を数多く出版しています。

 

 

1)OECDの所得分配研究

   OECD2008年報告書『格差は拡大しているか : OECD加盟国における所得分布と貧困』(OECD編著、 小島克久・金子能宏訳、明石書店、2010年) は、先進諸国における格差と貧困の国際比較を多角的に比較した金字塔な研究です。

 この研究の始まりはSawyer(1976)によるOECD加盟12カ国の所得格差を比較した論文ですが、各国のミクロ・データを用いて貧困率や所得格差を推計する国際比較プロジェクトが本格的に始まったのは 1990代になってからです。

 まずOECD加盟14カ国を対象とした報告書が1994年に刊行され (Forster 1994)、その後、徐々に対象国を増やしながら回を重ねています。

   日本の数値は、1990年代半ばの分析には経済企画庁が総務省統計局「全国消費実態調査」のデータを用いて推計し、その後は国立社会保障・人口問題研究所の研究者が厚生労働省「国民生活基礎調査」のデータを用いた推計を行っています(小島、近刊)。

  OECD所得プロジェクトは、OECDが独自に調査を実施し、データを作成しているのではなく、各国の専門家がそれぞれの国のデータを同じ分析手法で分析したものを集積したもので、日本のデータは筆者らが2003年に行った「社会生活調査」 (2003年、訪問調査、対象2000人、回答者数1520人)を集積しています。

2)OECDによる「物質的剥奪(Material Deprivation)」研究

   OECD 2008年報告書『格差は拡大しているか : OECD加盟国における所得分布と貧困』第7章「所得では捉えられない貧困の側面:物質的剥奪の指標から何が学べるか?」では、OECD24ヶ国の物質的剥奪の比較が行われています。

 ヨーロッパ諸国 (21ヶ国) のデータは、共通の社会調査 EU-SILC を用いています。EU以外の国々、オーストラリアは、Household Income and Labour Dynamics in Australia (HILDA)調査、アメリカは、Survey of Income and Program Participation (SIPP)調査のデータを用いています。

日本のデータは、筆者らが2003年に行った「社会生活調査」(2003年、訪問調査、対象2000人、回答者数1520人)を用いています。共通データがないため、独自に行われている類似調査から比較可能な変数をもってこなければなりません。そのために、測定手法について、いくつかの妥協がなされました。

 

OECDがとったアプローチ:

 24ヶ国すべてで「必需品調査(事前調査)」が行われているわけではありません。どのようなこうもくがそれぞれの国において「社会的必需品」であるか、24ヶ国のデータがすべて揃う共通項目のリストを用いるアプローチをしました。 

 また、「本調査」では、24ヶ国が同じ設計・調査票を用いていないので、対象者や設問のフレーズにも時には差があり、これらのフレーズの受け止められ方によって各国の数値の差が出てきている可能性が否めないこと、また、いくつかの国の調査では、設問において「選好」と「強制された欠如」が判別できるようになっていないことから、OECDは、各国の設問が捉えようとしている概念が同じであれば、そのデータを用いることができるはずである、と判断しています。

                                           OECDの物質的剥奪の分析に用いられた項目リスト

                               

OECDの項目 

日本の項目(2003年社会生活調)

適切に家を暖めることができない 

冷暖房機器(エアコン、ヒーター、こたつなど)を経済的に持つことができない 

食生活に金銭的な理由で制約がある 

1日1回果物を食べることが金銭的にできない

住宅が人数に対して狭い


 

複数の寝室をもつことができない

寝室と食卓を別の部屋にすることができない

貧しい居住環境 

となりの物音が聞こえる

公共料金等の請求に対する支払いができない

水道、電気、ガス、電話など支払いが滞ったためにサービスを停止されたことがある(過去1年間) 

家賃や地代の請求に対する支払いができない 

家賃の支払いが滞ったことがある(過去1年間)

家計収支が赤字になることがある

毎月家計が赤字となる

出所:OECD, 2008 

 

3)OECDの「より良い暮らし指標」(OECD Better Life Index)

 OECDは、かねてから 「At a Glance」シリーズにあるような、各分野における既存のマクロ統計資料(例えば、一人あたりGDPや、平均寿命、識字率、乳児死亡率など)を横並びにして比較する報告書を数多く出版しています。貧困・格差に特に関するものとしては、「Society at a Glance 」シリーズが、幅広な社会の状況を表す指標をカバーしています。

 このようなマクロ指標を並列して社会の状況を概観する最新の試みが、2011年に始まった「Better Life Initiative(より良い暮らしイニシアティブ)」です。「より良い暮らしイニシアティブ」は、2009年のスティグリッツ報告書の提言や2009年の欧州委員会「GDPとその後(GDP and Beyond)」(EU 2009)を受け、さらに検討を加えたものとなっています(OECD 2011)。

 「より良い暮らしイニシアティブ」は、報告書のほか 独自のホームページ(http://www.oecdbetterlifeindex.org)によって、幅広い啓蒙活動を行っています。   

ダウンロード
OECD "Better Life Index" 「より良い暮らし指標」に含まれる統計データ (11分野)
OECD Better Life Index より良い暮らし指標.pdf
PDFファイル 168.4 KB

  「より良い暮らしイニシアティブ」: 人々の暮らしの質を測るための3つの概念

    ① 個人や世帯の状況に焦点を当てる。・・・経済全体の状況 (例えばGDPなど)は、 必ずしもその社会に属する人々のウェル・ビーイングを

    表すものではないから。

    ② ウェル・ビーイングのアウトカム(結果) に注目する。・・・インプット (医療費や社会保障支出など) や アウトプット (入院患者数や

    社会保障給付の受給者数など)は、必ずしも人々のウェル・ビーイングとは関連しない。

    ③ 平均ではなく、分布に着目する。・・・・・特に、年齢、性別、所得および社会経済階層によるアウトカムの達成度の不平等をみことが

    重要である。

 

 「より良い暮らしイニシアティブ」: 統計データ選定の7つの判定基準

     ① 表面的妥当性があること (測定しようとする事象を的確に表していること)。

       ② 集約的なアウトカムであること (比較的広義の達成内容、例えば、「良い健康状態」であり、理解しやすいもの)。

       ③ 政策や制度に敏感であること (政策や制度を評価するという観点から)。

         ④ 学術的に用いられ広く認められていること。

         ⑤ 各国間の比較可能性が担保されていること。

         ⑥ 対象国数が最大となること。

         ⑦ データ収集が再現可能な調査法によるものであること。

 

 

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