3.欧州連合(EU)

 欧州での社会統計の整備は、1997年のアムステルダム条約に始まるとされています。その後、2000年のリスボン会議にてオープン政策協調手法 (OMC:Open-Method-of-Coordination)を通じて、統計・指標を整備する方針、2001年のラーケン会議にて具体的な指標の定義と方法が取り決められました。そして、2010年に採択された欧州2020戦略 (Europe2020) によって、貧困・社会的排除指標が欧州での中心戦略の中に据えられました。 (Takahashi 2013)

1)オープン政策協調手法 (OMC:Open-Method-Coordination)

①概要

 欧州委員会は、2000年に採択されたリスボン戦略以降、加盟国が国家主権を有する政策分野において統合性を高める手段としてOMCを採用しています。OMCは雇用政策で採られたルクセンブルグ・プロセスが発展したものとされ、貧困・社会的包摂政策の促進も現在、OMCを通じて行われています。欧州連合(EU)か国家戦略の策定の枠組みを提供し、加盟国間の調整を行っています。OMCはそもそも自主的な政策協力のプロセスであり、具体的には政策共通目標と具体的指標に関して加盟各国と合意し、それに向けて進展状況を測定し、評価を行うという方法です。各国はその共通目標を自身の国家戦略に翻訳し直し、報告書を提出し、それを欧州委員会や欧州評議会が共同報告書という形で評価を行ないます。

 また、OMCは各国のベストプラクティスを学ぶ相互学習のプロセスでもあり、主要政策や制度の効果を評価するピアレビュー会合がそのベストプラクティスを広める手段となっています。OMCの促進には欧州委員会の総局長のリーダーシップがキーになっています。

 

②OMCに関与する関係機関

 a)欧州委員会雇用・社会問題・包摂総局 

 b)欧州統計局

 c)欧州評議会

 d)貧困・社会的排除に対する欧州プラットフォーム

 

2)使用データ

欧州では個票データが使え、生活の質に関わる調査として、労働力調査 (LFS)、世帯・個人のICT利用に関する共同体調査 (ICT)、成人教育調査 (AES)、欧州健康面接調査 (EHIS)、家計調査 (HBS)、生活時間調査 (TUS)、公共安全調査 (SASU)、欧州健康・社会的統合調査(ESHSI)、そして欧州所得・生活状況調査(EU-SILC)の9種の調査があります。現在、貧困・社会的排除指標作成に中心的役割を果たしているのが EU-SILC です。

● 欧州所得・生活状況調査(EU-SILC) : EU Statistics on Income and Living Conditions

この調査は、ECHPに代わるものとしてベルギー、デンマーク、ギリシャ、アイルランド、ルクセンブルグ、オースリアの6カ国によって検討が開始され、調査自体も2004年から加盟13カ国とノルウェー、アイスランドの15カ国で調査が始まりました。2005年からは加盟25カ国を含む27カ国調査に拡大し、さらに2007年からはブルガリア、ルーマニア、トルコ、スイスも参加をしています。

 

 調査の質: 加盟国間で一定のルールの下、事後的な調和を図っています。具体的には、2003年6月に制定された枠組規制(REGULATION (EC) No 1177/2003)によって、所得、貧困、社会的排除、その他生活の質に関する調査であることを明記した上で、調査設計、カバーすべき調査内容、各国毎の最低サンプル基準、サンプル手法、データの欧州統計庁への移送方法、結果の公表期限などを規定しています。また、加盟国が一連の規制に違反して調和を乱す場合、罰金を科すことも可能となっています。

 調査の基本: 同一世帯を数年間に渡って追跡調査するパネル調査であり、パネルの形成は、世帯を数年かけて順番に入れ替えるローテーション制度を採用しています。多くの国では4年毎に全世帯が置き換わりますが、ルクセンブルグでは 9年制を取っていま。サンプリング方法は大きく①世帯を直接、抽出する方法、②個人を抽出してその個人が属する世帯を対象とする方法の2種類があります。ウェイトバックの方法にも世帯と個人の2種があります。

 EU-SILCの世帯票、個人票: 調査票には、社会的排除に関する項目が盛り込まれています。また、幸福感などの主観的感情も調査項目に含めることとなっており、2013年の特別調査を実施した後、毎年1問は追跡調査することになるといいます。欧州統計局では、2013年の調査以降、生活の質が主観的感情にどのような影響があるか、要因を検討していく、としています。 

ダウンロード
EU-SILC世帯票・個人票の社会的排除に関する調査項目
EU-SILC世帯票・個人票の社会的排除に関する調査項目.pdf
PDFファイル 288.7 KB
ダウンロード
EU加盟各国の貧困測定の状況
全国レベルで発表された最新の貧困に関する報告書において各国統計局が用いている指標(2010年4月時点)
EU加盟各国の貧困測定の状況.pdf
PDFファイル 775.2 KB

3)指標

ラーケン指標

 社会保護委員会傘下の指標分科会が検討を続け、2001年12月のラーケン首脳会合で承認を受けたのが通称「ラーケン指標」と呼ばれている指標群です。

 当初は、社会的排除の状況をもたらす最も重要な要素を示す高次の領域を表す主要指標10指標と他の問題を表すような二次指標8指標、合計18指標が選ばれました 。またこの時点では計算に当たって欧州共同体世帯パネル (ECHP) を使用していました。その後、指標分科会が子どもの問題に焦点を当てるなど検討を続け、2003年に3指標の定義の変更と2新指標の追加の改定版を公表しています。

 さらに2009年9月に社会的保護・社会的包摂戦略のための指標として体系化し、従来の指標を①包括指標、②包摂関連指標、③年金関連指標の3つに分類しなおしています。包摂指標としては  主要指標11指標、二次指標11指標 (下記PDF参照)  が定められました。

  ただし、住居や子どもに関する指標の重要性は認識しつつも検討・開発中となっていました。

 

ダウンロード
包摂関連指標一覧 (2009年) 1.主要指標11指標、2.二次指標11指標
包摂関連指標一覧 (2009年) 1.主要指標、2.二次指標.pdf
PDFファイル 152.8 KB

 

 ②欧州2020戦略 (Europe2020)

 2010年6月の欧州評議会で採択された欧州2020戦略は、欧州の成長戦略に当たるもので、雇用、生産性、社会的統合を高め、スマートで持続的で、包摂的な経済を確立することを目指しています。戦略の主要目標は、雇用、研究開発、気候変動・エネルギー、教育、貧困・社会的排除という5つの形で示され、これらの目標は、欧州統計局が取りまとめ、発表する主要指標に基づいて監視されています。 

 欧州2020戦略では加盟各国が定めた国毎のターゲット指標があります(下記表)。ただし、大半の国は欧州レベルでも目標を各国にブレークダウンし、目標人数を定めたものになっています。 

 欧州2020戦略の制定以降、欧州2020戦略の指標がラーケン指標から置き換わったという訳ではないとされています。

 

 

←前へ (2.経済協力開発機構OECD 3))                                                                                         次へ(3.欧州連合EU4)) →