2.貧困から社会的排除(Social Exclusion)へ

 金銭的指標の最大の問題は、個々人のウェル・ビーイングが、ただ単に物質的な充足度だけでなく、人との交流の度合い、社会参加、政治的発言力、健康や教育、機会へのアクセス、などの非金銭的・非物質的な状況に影響されることです。資源の欠如が、「貧困」の唯一の問題ではないということは、半世紀に近い社会科学の研究の中でたびたび指摘されてきました(UN2010, p.7)。

 また、それらを貧困の測定に含めようという試みも存在し、この動きは、「貧困から社会的排除(Social Exclusion)へ」という社会政策における大きな政策転換の流れの一部となり、たどり着いたところが、欧州連合(EU)における「貧困と社会的排除指標」への開発、「EUROPE2020」の策定です。

 

●「社会的排除」の概念と従来の貧困概念との違い

 国際連合の定義:「貧困」は資源の欠如、「社会的排除」は、個人または特定のグループが非自発的に社会から追い出されることを意味し、複雑で多分野にわたる不利を伴うものとしている。また、「貧困」は「社会的排除」を引き起こす重要な要因となるとしている(UN 2010, p.1)。

 

 欧州連合の定義:『「社会的排除」は、過程と結果としての状態との双方を指すダイナミックな概念である。〔中略〕社会的排除はまた、もっぱら所得を指すものとしてあまりにしばしば理解されている貧困の概念よりも明確に、社会的な統合とアイデンティティの構成要素となる実践と権利から個人や集団が排除されていくメカニズム、あるいは社会的な交流への参加から個人や集団が排除されていくメカニズムの有する多次元的な性格を浮き彫りにする。それは、労働生活への参加という次元をすら超える場合がある。すなわちそれは、居住、教育、保健、ひいては社会的サービスへのアクセスといった領域においても感じられ、現れるのである。』(欧州委員会EC 1992)

 

●「社会的排除」の概念を指標化し、測定しようとする試み

 貧困が、ある「状態」を表すのに対し、「社会的排除」は個々人が社会から排除されていく「プロセス」を表す。また、従来の貧困概念は、貧困が生じる要因については不問であり、個人の属性と見ていましたが、「社会的排除」の概念は、社会がどのようにその個人を貧困に追い込んだのかという「排除をする側=社会」の仕組みや制度を問題視しました。

 

 ヨーロッパ諸国では、「社会的排除」の概念を指標化し測定しようとする試みは 1990年代後半から取り組まれており 、現在の欧州連合の「EUROPE2020」の策定にたどり着いています。

 社会的排除を指標化するためには、以下の特徴が指標に反映されなければならないとしました。

  ①多次元の分野を対象としていること:

         一次元から多次元指標への動き。社会的排除では、特に、個人と社会の関係性が重要視され、

         社会関係の欠如、社会サポートの欠如、労働市場からの排除、教育機会の欠如などのデータ

         が指標に加えられています。

  ②「社会的排除」が自発的なものではなく、強制的なものであること:

          客観的指標に加えて主観的指標も計測の対象にする動きです。これは、「排除」や「貧困」

          は専門家によって恣意的に定められた「線」の上か下かで決定するものではなく、人々それ

          ぞれが経験し感じるものである、という概念に基づいています。

  ③生活困窮の「蓄積」の「過程」がみえること:

         一時点から多時点への動き。社会的排除がプロセスであるという考えに基づくと、一時点での

         状態をみただけではこれを把握することができないからです。

  ④生活困窮者を取り巻く環境要因にも着目すること:

         個人・世帯単位から空間単位の動き。被排除の単位を個人ではなく、地域や国など、空間単位

         で捉えています。例えば、地域の安全性(犯罪率など)や環境の善し悪し、国や地域全体の失

         業率(個人が失業しているか否かではなく)が指標の一部に含まれています。地域・国単位の

         指標を含むことで、社会的排除に至る要因を個々人の問題として捉えるのでなく、排除されて

         いる人のおかれた環境であると捉えようとする姿勢が伺えます。(阿部2007)

 

 

 

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