3.社会的排除 (Social Exclusion) の測定

 社会的排除を社会科学的に測定しようとする試みは、1990年代にヨーロッパ諸国の研究者によって始められました (Barnes et al. 2002, Moisio (2002)、 Muffels, Tsakloglou and Mayes eds. (2002)。これらの研究に用いられたのが欧州統計局 (Eurostat) によるEuropean Household Panel Survey (EHPS)で、後に EU-SILC (EU Statistics on Income and Living Conditions) として再編されることとなりました。

 

どのような次元から社会的排除を定義しているか 例を見てみましょう。

●Tskloglou & Papadopoulos eds. (2002) :

 ・低所得 (相対的貧困、貧困線は中央値の50%)

 ・耐久財の欠如

 ・必需品の剥奪

 ・アメニティの剥奪

 

●Moisio (2002) :

 ・低所得 (相対的貧困、貧困線は中央値の50%)

 ・労働市場への非統合 (世帯内の勤労世代の平均労働時間が15時間/週以下)

 ・住宅環境 (広さ、騒音、暖房などが不十分)

 ・低教育 (学歴)

 

イギリスの例をみてみましょう。(「主要国 (例) の貧困指標」”イギリス” 参照) 

●イギリスの Center for the Analysis of Social Exclusion(CASE):British Household

 Panel Survey (BHPS) を用いて行った分析 (Burchardt, Le Grand & Piachaud 1999):

 ・ 生活水準の低さ (世帯所得が平均の50%以下)

 ・ 金銭的不安定 (貯蓄が2000パウンド以下、個人又は企業年金に不参加、自営でない)

 ・ 他人から認識される活動※1 への不参加 (被雇用者、自営者、学生、主婦、退職者で

   ない)

 ・ 決定権の欠如 (選挙へ不投票、政治的活動の欠如)

 ・ 友人、家族、コミュニティからのサポートの欠如

      ※1「他人から認識される活動」とは、労働 (又は社会的に認知された

                  無収入労働)のこと、ここでは労働を収入を得るための活動と見

                  なさず社会参加として見ています。

 

 ●イギリスの「貧困と社会的排除調査 (Poverty and Social Exclusion Survey:PSE

   調査) 」(1999年):

 ・十分な所得または資源の欠如 (所得の貧困、社会的必需項目の欠如、主観的貧困※2

      の3つの指標)

   ・労働市場からの排除 (1人も就労者がいない世帯、学生と退職者世帯は除く)

   ・サービスからの排除 (水道、電気、ガス、交通機関、医療、ショッピング、金融サー

      ビス、娯楽などのサービスのうち3つ以上が金銭的な理由で使えない)

   ・社会関係からの排除

     a.社会的に必要とされる社交活動のうち、いくつかが欠落している

     b.友人または家族とのコミュニケーションが日々ない (孤立)

     c.サポートの欠如 (寝込んだ時、力仕事が必要な時などの身体的サポート、

             悩み事などがある時の心理的サポートなど、7つのサポート項目のうち

       4つ以上が欠けている)

     d.選挙など市民活動の欠如

     e.社交活動になんらかの理由により参加することができない (金銭的理由、

              交通手段へのアクセスの欠如、仕事/育児などの理由を含む)。

                  (Bradshaw et al. 2000、Gordon et al.2000)

 

   ※2 PSE調査では、次の設問を用いて「主観的貧困」を計測している。①「あなたが属す

      る世帯のような世帯が貧困から免れるには税後で何パウンド必要と思いますか? あ

      なたの世帯は、そのレベルに比べてどれくらいだと思いますか?かなり上、少し上、

                同じくらい、少し下、かなり下、わからない」②貧困には「絶対的貧困」と「総合的

                貧困」があります。絶対的貧困は、基本的に人間が必要とするものが剥奪されている

                状態です。絶対的貧困に陥らないようにするためには、次の項目をカバーするだけの

                お金が必要です:十分な栄養、家賃、暖房費、衣服費、水道料金、処方箋のある薬剤。

                「あなたが属する世帯のような世帯が絶対的貧困から免れるには税後で何パウンド必

                要と思いますか?あなたの世帯は、そのレベルに比べてどれくらいだと思いますか? 

                かなり上、少し上、同じくらい、少し下、かなり下、わからない」③「総合的貧困に

                陥らないようにするには、基本的に人間が必要とするもの以外に、以下の項目ができ

                るようにするだけのお金が必要です:安全な環境に住む、地域で社会的な生活をおく

                る、コミュニティーの一員と感じる、職場・家族・地域にて自分の仕事・活動を行う、

                必要な交通費を払う。あなたが属する世帯のような世帯が総合的貧困から免れるには

                税後で何パウンド必要と思いますか?あなたの世帯は、そのレベルに比べてどれくら

                いだと思いますか?かなり上、少し上、同じくらい、少し下、かなり下、わからな

          い」。(Townsend et al. 1999, Poverty and Social Exclusion Survey of Britain

                Questionnaire, Townsend Center for International Poverty Research,

                University of Bristol.)

 

 PSE調査は、従来の調査にはなかった社会関係からの排除を明示的に取り入れ、社交活動の欠如、孤立、社会サポートの欠如、社会参加の欠如などを社会的排除の重要な一面として項目に含めています。

 2012年に第2回調査が実施され、2013年3月にその結果の速報が発表されました (Gordon et al. 2013)。速報では、様々な分野における社会的排除の状況にある人数の推計及び、いくつかの項目については1983年、1990年のBreadlineBritain調査、1999年の第1回調査と比較を行っています。

 PSE調査 第2回調査 結果の概要:

  ・3千万人(国民半数に近い)が、何らかの金銭的不安定を抱えている。

  ・1.8千万人が十分な住宅の質を確保できていない。

  ・1.4千万人が1つ以上の必需品を欠如している。

  ・1.2千万人は、一般市民が必要と考える社交的活動を金銭的な理由でできない。

  ・5.5千万人は、必要な衣服を持つことができない。

  ・400万人が、今日の標準からみて適切な食事をすることができていない。

  ・400万人の子どもは、必需品を2つ以上持っていない。

  ・250万人の子どもが、湿った住居に住んでいる。

  ・150万人の子どもが、十分に暖めることができない家屋に住んでいる。

  ・1983年に比べ、その時点において必要と一般市民が考える生活水準を満たすことが

   できない人が2倍となった。

  ・1999年に比べ、貧困状態であり制約された生活をしている子どもが多くなった。

 

 

 

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