3.貧困から社会的排除 (Social Exclusion)へ

●「社会的排除」の概念を指標化し、測定しようとする試み

 貧困が、ある「状態」を表すのに対し、「社会的排除」は個々人が社会から排除されていく「プロセス」を表す。また、従来の貧困概念は、貧困が生じる要因については不問であり、個人の属性と見ていましたが、「社会的排除」の概念は、社会がどのようにその個人を貧困に追い込んだのかという「排除をする側=社会」の仕組みや制度を問題視しました。

 

 ヨーロッパ諸国では、「社会的排除」の概念を指標化し測定しようとする試みは 1990年代後半から取り組まれており 、現在の欧州連合の「EUROPE2020」の策定にたどり着いています。

 社会的排除を指標化するためには、以下の特徴が指標に反映されなければならないとしました。

  ①多次元の分野を対象としていること:

  ②「社会的排除」が自発的なものではなく、強制的なものであること:

  ③生活困窮の「蓄積」の「過程」がみえること:

  ④生活困窮者を取り巻く環境要因にも着目すること:     

                                                             

 貧困が、ある「状態」を表すのに対し、「社会的排除」は個々人が社会から排除されていく「プロセス」を表します。また、従来の貧困概念は、貧困が生じる要因については不問であり、個人の属性と見ていましたが、「社会的排除」の概念は、社会がどのようにその個人を貧困に追い込んだのかという「排除をする側=社会」の仕組みや制度を問題視しました。

  社会的排除を社会科学的に測定しようとする試みは、1990年代後半にヨーロッパ諸国の研究者によって始められました (Barnes et al. 2002, Moisio (2002)、 Muffels, Tsakloglou and Mayes eds. (2002)。これらの研究に用いられたのが欧州統計局 (Eurostat) によるEuropean Household Panel Survey (EHPS)で、後に EU-SILC (EU Statistics on Income and Living Conditions) として再編されることとなりました。

 

どのような次元から社会的排除を定義しているか 例を見てみましょう。

●Tskloglou & Papadopoulos eds. (2002) :

 ・低所得 (相対的貧困、貧困線は中央値の50%)

 ・耐久財の欠如

 ・必需品の剥奪

 ・アメニティの剥奪

 

●Moisio (2002) :

 ・低所得 (相対的貧困、貧困線は中央値の50%)

 ・労働市場への非統合 (世帯内の勤労世代の平均労働時間が15時間/週以下)

 ・住宅環境 (広さ、騒音、暖房などが不十分)

 ・低教育 (学歴)

 

●イギリスの Center for the Analysis of Social Exclusion(CASE):British Household

 Panel Survey (BHPS) を用いて行った分析 (Burchardt, Le Grand & Piachaud 1999):

 ・ 生活水準の低さ (世帯所得が平均の50%以下)

 ・ 金銭的不安定 (貯蓄が2000パウンド以下、個人又は企業年金に不参加、自営でない)

 ・ 他人から認識される活動への不参加 (被雇用者、自営者、学生、主婦、退職者でない)

 ・ 決定権の欠如 (選挙へ不投票、政治的活動の欠如)

 ・ 友人、家族、コミュニティからのサポートの欠如

   

 貧困と社会的排除調査 (Poverty and Social Exclusion Survey:PSE調査) 」:

   PSE調査は、従来の調査にはなかった社会関係からの排除を明示的に取り入れ、社交活動の欠如、孤立、社会

 サポートの欠如、社会参加の欠如などを社会的排除の重要な一面として項目に含めています。