子どもに関する指標の取り組みである 子どものウェルビーイング指標(Child Well-being Indicator /Index、以下CWIと略)の共通定義は存在しませんが、国連ユニセフは「子どもの権利の実現およびすべての子どもがその能力、潜在的な可能性やスキルを実現する機会の達成度合(UNICEF2013)」と定義しています。具体的には図のような各分野からなる指標(Indicator)の集まり、もしくは複数指標を統合し指数(Index)として表示されます。
「子どもの貧困」ではなく「子どものウェル・ビーイング」概念を使うことによって、金銭・物質面に限った議論ではなく、子どもの生活に影響を与える教育、健康、安全、生活環境等の多様な要因の包括的な理解を促し子ども達の置かれた状況に目を向けさせる (Bradshaw et al. 2007)ことを狙いとしています。
CWIは1960年代頃の「社会指標」や「生活の質(Quality of Life)」研究を源流としており(Land et al. 2007)、国際機関における子どもに焦点化した指標作成は1989年国連こどもの権利条約(以下「権利条約」と略)が端緒です。権利条約により従来の救貧的、保護的な「ウェルフェア(welfare)」から子ども個人の尊厳と、人権を尊重し最低限度の生活ではなく人間的に豊かな生活の実現をはかる「ウェル・ビーイング(well-being)」へ概念の転換が進みました。この概念転換が既に最低限度の生活は保障された先進国の子ども達の生活の質を測る指標の開発を促したのです。
国際機関および各国政府における子どものウェルビーング指標の一覧
実施主体 |
国際機関 |
スウェーデン |
イギリス |
アメリカ |
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ユニセフ・ イノチェンティ 研究所 |
ユニセフ・ イノチェンティ 研究所 |
OECD |
政府(子どもオン ブズマン) |
政府 (国家統計局) |
連邦政府(The Federal Inter-Agency Forum on Child and Family Statistics; 連邦政府内の子ども・ 家族関連統計を扱う 部局間の連絡 調整機関) |
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公表物 |
Child well-being in rich countries: acomparative view (Innoceti Report Card series 7) |
Child well-being in rich countries: acomparative view (Innoceti Report Card series 11)
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Doing better for children |
Max18 (ウェブ サイト公表) |
未公表 (検討作業中) |
America's Children in Brief:Key National Indicators of Well-being |
対象・単位 |
国際比較 |
国際比較 |
国際比較 |
国、 地域別 |
国 |
国 |
調査対象年 |
2000年代 前半 |
2000年代 後半 |
2000年代 前半 |
2012年より公開 。時系列 データあり。 |
未公表 (検討作業中) |
1997年から毎年刊行。 時系列データあり。 |
表示形式 |
指数 (総合、分野別) |
指数 (総合、分野別) |
指数 (分野別のみ) |
指標 |
不明 |
指標 |
分野 |
6分野 1.物質的 ウ ェ ル ビーング 2.健康と安全 3.教育ウェル ビーング 4.家族と仲間 関係 5.行動と リスク 6.主観的 ウェル ビーング |
5分野 1.物質的 ウェル ビーング 2.健康と安全 3.教育 4.行動と リスク 5.住居と環境 |
6分野 1.物質的 ウェル ビーング 2.住居と 環境 3.教育 4.健康と 安全 5.リスク 行動 6.学校生 活の質 |
6分野 1.経済 2.健康 3.教育 訓練 4.安全 5. 参加 6.支援と 保護 |
10分野 1.個人的 ウェル ビーング (生活満足 度等) 2.我々の関 係性家族や 友人関係) 3.健康 4.我々が行 うこと (学校、 仕事、 余暇と そのバラ ンス) 5.我々の生 活環境(住 居、地域環 境) 6.個人の 経済状態 所得や 資産) 7.教育と スキル 8.一国経済 状況1人 あたり国民 所得、イン フレ率) 9.ガバナン ス(民主 主義) 10.自然環境 |
7分野 1.人口的背景 2.家族と社会環境 3.経済状況 4.医療ケア 5.物理的環境と安 全 6.行動 7.教育 8.健康 |
出典: UNICEF(2007,2013)、OECD(2009)、 スウェーデンは子どもオンブズマン
局内 の Max18 サイト (http://www.barnombudsmannen.se/max18/)
イギリスはTheodore(2013)、アメリカはTheFederal Inter-Agency Forum
on Child andFamily Statistics(2012)を参考に筆者作成。(Takezawa 2013)
ユニセフ・イノチェンティ研究所(正式には、国際子どもの開発センター(the International Child Development Centre))は、世界中の子どもたちの権利を推進するためのアドボカシー(政策提言)活動を促進すべく1988年設立されたユニセフの付属研究機関です。同研究所では2000年より先進国の子どもたちの状況を調査・分析した報告書シリーズを刊行し、子どものウェル・ビーイング指標の国際比較を取り上げています。
最初は2007年刊『Report Card7(以下 RC7)』で、これと同様の枠組みで4年後の2013年に『Report Card 11(以下RC11)』が公表されました。RC7とRC11はともに、子どもの権利条約に基づき指標分野、項目が選定されています。両者の指標分野項目を比較したものが 下記の表です。
ユニセフ イノチェンティ レポートカード7、 レポート11
最初は2007年刊『Report Card7(以下 RC7)』で、これと同様の枠組みで4年後の2013年に『Report Card 11(以下RC11)』が公表されました。RC、7とRC11はともに、子どもの権利条約に基づき指標分野、項目が選定されています。両者の指標分野項目を比較したものが 下記の表です。
●ユニセフ イノチェンティ レポートカード11 特別編
RC11特別編として 2013年12月に『先進国におけるこどもの幸福度 日本との比較 特別編集版』が刊行されています。
●ユニセフ イノチェンティ レポートカード12
平成26年10月28日 国立社会保障・人口問題研究所は、『ユニセフ・イノチェンティ レポートカード12 不況の中の子ども:経済危機の子どもへの影響(英文)』を取りまとめ、『日本解説版』を 公表しました。(RC12解説版のPDFはこちらをご覧ください。日本語)
今回のレポートは、子どもの状況を示す3つの指標について、経済危機前後(2007年から2011~2013年)にどのように変化したか、その変化の方向と大きさについて、先進41ヵ国の順位付けを行なっております。
経済危機がどのように子どもに影響したのか、また、その影響を子どもに及ぼさないために各国がどのような政策を取ったのかをまとめたものとなっています。
●ユニセフ イノチェンティ レポートカード13
最新版が2016年4月に発行されました。
日本語版の巻頭では、首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩が、日本の子どもの格差の状況についで、独自のデータも加えて解説しています。
(参考資料)
報道発表資料(プレスリリース)2016.4.14 ユニセフ 報告書『子どもたちのための公平性』発表
「Doing better for Children(子どもの福祉を改善する)」はOECD加盟国全体にわたって子どもの成長に関わる社会的環境を調査、比較考察した報告書で((OECで(OECD2009)、2章として子どもウェル・ビーイングに関する国際比較が収録されています。OECD指標は、政策との関連を重視し、関連が明らかでない主観的指標は除かれ、6分野(物質的ウェル・ビーイング、住宅と環境、教育、健康と安全、リスク行動、学校生活の質)、21指標から成っています。日本は21指標中5指標が欠損しています。
【OECDの子どもウェルビーイング指標項目】