1.貧困指標の分類 : 主な分類の基軸

A) 主観的指標 VS. 客観的指標

 客観的指標とは、他人から見るある個人や世帯の「生活の厳しさ」を指します。その厳しさを評価するのはあくまでも他人ですから所得や物質的欠如など、さまざまな方法が編み出されています。主観的貧困とは、その個人本人が感じる「生活の厳しさ」を指します。主観的なものですから、同じ境遇にあっても、人によってその受け止め方は違います。そのため、主観的貧困は客観的貧困に比べ「信頼性」が低いと思われがちです。けれども、近年の研究では、主観的な指標、たとえば、本人の自己申告による健康状態(「あなたの健康状態はどうですか? 1.よい、2.ふつう、3.よくない」といった質問への回答)が、医師が検査して評価した客観的な指標よりも、その後のその人の健康状態をよりよく表している、といった研究結果もあります。これは、どんなにいろいろな客観的な指標を編み出しても、個人個人の生活の詳細までは測ることができないからです。客観的指標と主観的指標を両方のデータを見ることが重要です。

 

  客観的貧困のデータの例

 

     貧困データのほとんどは客観的指標です。客観的指標の中にもいくつかのカテゴリー

     がありますので、順に見ていきましょう。

 

     ~~ 工事中 ~~

 

 

B) 絶対的貧困 VS. 相対的貧困

 日本人の多くが持つ「貧困」のイメージは、食べ物にも事欠いている、衣服もボロボロである、といった、発展途上国の難民や、戦後直後の日本の状況です。このような生きることさえ危うい状況のことを「絶対的貧困」と呼びます。けれども、現在、先進諸国の大多数が用いている貧困の概念は「相対的貧困」と呼ばれるものです。

 

 「相対的貧困」とは、人がある社会のなかで生活するためには、その社会の殆どの人々が享受している「あたりまえ=普通」の習慣や行為を行うことができない状態であると定義します。ひとは生物的な存在であると同時に、社会の一員として機能する社会的な存在です。ひとが社会の一員として生きていくためには、働いたり、結婚したり、友人や親せきと交流したりすることが可能でなければなりませんし、そのためには、ただ単に寒さをしのぐだけの衣服ではなく、人前に出て恥ずかしくない程度の衣服が必要でしょうし、電話などの通信手段や、職場にいくための交通費なども必要です。これらの費用は、社会の「通常」の生活レベルで決定されています。だから、「あたりまえ」の生活を送るためには、社会全体の生活レベルに比べてある一定範囲に収まる生活レベルが必要、と考えるのが「相対的貧困」の概念です。その社会是年泰の生活水準が上がれば、相対的貧困基準もあがることとなります。

 

 

  絶対的貧困の例

      ・国際連合が発展途上国の貧困指標として用いる「1日1ドル未満の所得」

      ・「1日の栄養摂取量が1500カロリー未満」

      ・ 物質的はく奪(Material deprivation)

      ・年間所得が「200万円」以下                         など  

 

  相対的貧困の

               ・所得データによる相対的貧困率(相対所得貧困率)

               ・相対的はく奪(Relative deprivation)

               ・生活保護法による保護基準            など

 

 

C) 一次元の指標 VS. 多次元の指標

 一次元の指標とは、1つのデータのみで貧困の側的をする指標です。もっとも一般的に使われるのが、「所得」というデータですが、人間の生活水準というのは、「所得」のみで規定されるものではない、というのは多くの方が感じることでしょう。たとえば、所得は少なくても、田舎で、大きくてゆったりとした家に住み、友人に恵まれ、健康である人と、所得はそこそこあっても、都会の狭いアパートで隣づきあいもなく住んでいる人、どちらの生活水準が上でしょう?

 貧困の概念は、ただ単に「お金がない」ことだけを表すものではありません。そこには、人間関係の稀薄性や、社会参加の有無、住宅や近隣の環境など、さまざまな要素が含まれます(貧困の定義については、こちら)。

 貧困の測定においても、これらの多次元の複数のデータを用いて「所得」という一次元の指標を補完しようという考えもあります。問題は、これら、たくさんの情報を同時に集めたデータが少なく、新しく社会調査をするにも莫大な費用が必要なことです。このような社会調査の発展が、「剥奪(デプリベーション)」や「社会的排除」指標となっていきます。日本には、このようなデータはごくわずかしかありません。

 しかし、悲観的になることはありません。低所得は、なんのかんの言っても、人間関係の稀薄さや、社会参加の欠如、健康にいたっても、と、相関があるからです。

 貧困の研究者は、貧困=低所得、と思っているわけではありません。低所得を測ることで、より大きい「貧困」という現象の重要な手がかりになると思っているのです。

 

  一次元の指標の例 

    ・所得ベースの相対的貧困率                                  リストはこちら→ 

 

  多次元の指標の例

    ・相対的はく奪(Relative deprivation)指標

    ・社会的排除指標 

             

D) 一時点の指標 VS. 多時点の指標

 次に重要なのは、何時点でのデータを用いるか、という点です。通常は、ある一時点において調査した所得やその他の情報をもとに貧困かどうかを判断します。

 人によっては、ある年はたくさんお金を得たものの、次の年にはさっぱり、というように、時系列によって所得などの変動が大きいことがあります。だとすれば、一時点のデータだけでは、その人の真の生活水準はわからないかも知れません。

 より貧困を正確にcaptureする方法としては、複数年にわたってデータを収集し、所得が貧困を下回る状況が継続的なものか、一時的なものかを見極める方法があります。 たとえば、5年間の所得データがあれば、5年間のうち5年間ずっと貧困である場合に「持続的貧困」、5年間のうち3年間貧困である場合に「慢性的貧困」、5年間のうち1年間だけ貧困であった場合に「一時的貧困」など、区別することが可能です(名前については、各研究によって異なります)。これまでの研究では、一時的貧困と、継続的な貧困ではだいぶ人々が置かれた状況が異なることがわかっています。

 しかし、多時点の状況を考慮した貧困指標を計算するためには、同じ人を数年間にわたってフォローしたデータを必要とします(このようなデータをパネル・データといいます)。欧米諸国では、このようなデータが多く存在しますが、日本では、まだ数少ないのが現状、日本における多時点のデータを用いた貧困の推計は限られています。

 

  時点の指標の例

            ・相対的貧困率

            ・その他のほとんどの貧困指標

 

  多時点の指標の例

    ・持続的貧困、継続的貧困、一時的貧困など複数時点の「貧困」を考慮した指標

              (たとえば、「持続的貧困」は3年以上続けて相対的貧困状態にある、「一時的

                貧困」は、1年のみ相対的貧困状態にある、など)。

 

E) 個人(世帯) VS. 空間(地区・地域)

 個人(世帯)ベースの指標は、集計の単位として個人または世帯を用います。空間(地区・地域)ベースのデータは集計の単位が地区・地域(時には小学校区や○丁目といった小規模地区)の指標を指します。この背景には、貧困の要因が、各個人又は各世帯の属性にあるのではなく、地域や階層・民族など個人を取り巻く社会環境にある、という考え方があります。

 

                 

F) 貧困の頻度 VS. 貧困の深度

 貧困の頻度を表す指標は、貧困率(全人口に占める貧困者の割合)や世帯貧困率(全世帯に占める貧困世帯の割合)など、貧困の事象が起こっている割合を示します。これに対して、貧困の深度を表す指標は、生活困窮の度合い(所得を用いた貧困指標では貧困基準と貧困者の所得の差)を表す指標です。貧困ギャップやセン指数は、頻度と深度の両方の情報を備えた指標です。頻度の指標は、直感的にその意味するところがわかりやすいため、深度の指標よりも普及しているものの、貧困の深刻な人も軽微な人も同じに扱うので、政策評価などの用途に用いるには鈍感であるといえます。 

 

G) マクロ指標 VS. ミクロ指標

 マクロ指標とは、国や地域全体を表すデータを元に計算される指標で、代表的なものが一人あたりGDPです。ミクロ指標とは、個人や世帯単位のミクロ・データを元に算出されるもので、国や地域内の分布を測ることができるので、貧困指標としては、より優れています。

 金銭的指標以外の指標を用いた「生活の質」の測定方法には、さらにその測定の方法において大きく二つに分けることができます。一つが、複数の分野の指標を国別または地域別に並列的に列記するものです。これは、国の発展状況や時系列のプログレスを概観したり、国ごとの発展のランキングをするために用いられることが多く、国際連合や国連児童基金(ユニセフ)、などの国際機関や、各国政府の報告書などにて採用されている手法です。

 異なる分野ごとにデータが示されているので、「健康分野では改善があったものの、社会参加分野にては低迷している」などの分野ごとの解釈が可能です。これには、失業率や平均寿命、識字率や、乳幼児死亡率など、既に政府として把握しているデータを用いることが多いです。

 この手法の発展として、異なる分野のデータを集約し、1つの指標を構築する手法があります。国際連合が1990年から公表している人間開発指標(Human Development Index)や、ユニセフの子どものウェル・ビーイング指標 (Child Well-being Index)がこの典型例です。

 問題点は、このようなマクロ指標を積み上げても、貧困・格差の状況を把握することが難しいことです。積み上げるマクロ指標を、国や地域の平均値ではなく、貧困・格差を表すデータ(例えば、一人あたりGDPではなく低所得率、平均寿命ではなく乳幼児死亡率、識字率や学歴達成率ではなく高校中退率、など)を採用することによって、貧困・格差の状況に近づくことはできますが、これらの個々人にどのように重なった不利となっているのか、貧困者のトータルな生活がどのような状況にあるのかは、これらの項目を含んだ個人・世帯レベルのミクロ・データでのみ把握することが可能なのです。

 そのため、EU-SILC (EU Statistics on Income and Living Conditions) を始め、各国の公的統計調査においても、個人・世帯レベルのミクロ・データで、社会的排除や非金銭的な生活水準を調査するようになってきています。EU諸国では、EU-SILCが最も大きなデータ・ソースで、そのほかに国でも(例えば、ニュージーランド、オーストラリア、メキシコ)公的統計調査でミクロの貧困データを取っていて、それを公的な貧困指標として採用しています。

 

  マクロ指標の例          

 

            ・ユニセフ 子どものウェル・ビーイング指標(Child Well-Being Index) 

 

  ミクロ指標の例

           ・欧州所得・生活状況調査(EU-SILC: EU Statistics on Income and Living Conditions)

 

 

←前へ (貧困指標の種類) Top                                                                                                                           次へ (剥奪アプローチ)→